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京都地方裁判所 昭和43年(ワ)762号 判決

原告

増田絢子

被告

藤川美智子

ほか一名

主文

一、原告の被告藤川美智子に対する請求を棄却する。

二、被告藤川峯一は原告に対し、金一、九三二、〇六五円およびこの内金一、八〇〇、四四〇円については昭和四三年六月一六日から、同内金四〇、五〇〇円については昭和四三年九月一日から、同内金四〇、五〇〇円については昭和四四年一月一日から、同内金二七、〇〇〇円については昭和四四年九月一日から、同内金二三、六二五円については昭和四五年一月一日から、各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

三、原告の被告藤川峯一に対するその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用中、原告について生じた分は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告藤川峯一の負担とし、被告藤川美智子について生じた分は、原告の負担とし、被告藤川峯一について生じた分は、これを三分しその一を原告の負担とし、その余を同被告の負担とする。

五、この判決は原告において金二〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、被告藤川峯一に対し、原告勝訴部分に限り仮執行ができる。

六、被告藤川峯一において金六〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一、当時者双方の求めた裁判

一、原告

(1)  被告両名は各自原告に対し金二、八六六、四〇七円およびこれに対する昭和四三年六月一六日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(2)  訴訟費用は被告らの負担とする。

旨の裁判並びに仮執行の宣言

二、被告ら

(1)  原告の請求を、いずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

旨の判決並びに仮執行免脱の宣言

第二、当事者双方の主張

一、原告

(請求の原因)

(1) 原告は昭和四二年七月九日午前八時五〇分頃、京都市右京区嵯峨釈迦堂門前瀬戸川町一五の二附近の無名通り三差路上において、小型乗用自動車(登録番号京五・九三―八三)のタクシーに乗客として乗車していたところ、被告藤川峯一運転の小型貨物乗自動車(登録番号京四ひ九三―六六)(以下本件自動車という)が右タクシーと接触した(以下本件事故という。)。

(2) 原告は右事故によつて外傷性頸部症候群胸椎腰椎捻挫の傷害を受けた。

(3) 本件自動車は、被告藤川美智子の所有にして、被告らは夫婦であり、ともに、本件事故の際、本件自動車を被告らのために運行の用に供していたものであるから、いずれも自動車損害賠償保障法第三条により、本件事故に基因して原告が受けた前記傷害によつて生じた損害を賠償しなければならない。

(4) 仮りに、被告藤川峯一に運行供用者責任が認められないとしても、本件事故は、南行していた原告同乗の前記タクシーと、北行していた本件自動車とが、本件事故現場で、行き違うことができなかつたので、本件自動車を運転していた被告藤川峯一が右タクシーに道を譲つて本件自動車を幅員の狭い第三路に待避させ、右タクシーを通過させたが、右タクシーが前方車渋滞のため徐行運転していたところ、右被告が本件自動車を右第三路より本道に出すためバツク運転し、その際本件自動車を、右タクシー後部に追突さして発生したものである。右バツク運転に際し、被告藤川峯一は右タクシーの動静および本件自動車の進路に注視して安全運転をしなければならない注意義務があるのに、これを怠り、右タクシーの運行状況に注意することなく、急速度で本件自動直をバツク運転させたために本件事故が発生したものであるから、本件事故は、右被告の一方的過失によつて発生したものということができ、右被告は、民法第七〇九条により原告に対し、原告が本件事故によつて受けた前記傷害によつて蒙つた損害を賠償しなければならない。

(5) 原告は本件事故による前記受傷によつて次の損害を蒙つた。

(イ) 休業損害

原告は、本件事故当時、株式会社高川製作所の京都大丸百貨店内販売員として一カ月について金二七、〇〇〇円の給料と、毎年八月と一二月とに、各給料月額の一・五カ月分の賞与を受けていたのに、本件事故による前記受傷のために、やむを得ず昭和四二年七月九日から昭和四三年六月八日まで右会社を欠勤して、右の間右金二七、〇〇〇円の割合による月給の一一カ月分と、右金額の三カ月分に相当する賞与計金三七八、〇〇〇円の得べかりし給与を喪失し、右金額相当の損害を蒙つた。

(ロ) 逸失利益

原告は、本件事故による前記受傷のため、昭和四三年六月九日から昭和四五年六月九日までの間も右会社に出勤することができず、右各給与を受けることができなかつた。右月給金二七、〇〇〇円と年間右月給の三カ月分の賞与とを合算して、平均月収を求めれば金三三、七五〇円となり、原告は、昭和四三年六月九日から昭和四五年六月九日まで毎月右金三三、七五〇円の収入を得ることができたのに、右受傷のため、これを喪失したものである。そこで右の間毎月金三三、七五〇円の収入を得るものとして、年五分の中間利息を控除し、月別ホフマン式計算法によつて、昭和四三年六月八日現在の価格を求めれば金七七〇、四七八円となり、原告は本件事故による前記受傷によつて右金額相当の損害を蒙つたものである。

(ハ) 入院通院諸費用

a 頸椎索引用具、コルセツト代 金一七、七〇〇円

b 初診料、治療費、入院、部屋代、交通費等

京都第二赤十字病院(昭和四二年七月九日~同月一一日)

初診料 金二〇〇円

治療代 金一、八九〇円

交通費 金一、三五〇円

船越病院(昭和四二年七月一一日~同年一〇月六日)

栄養補給費 牛乳一日三本(単価二二円)

鶏卵一日三個(単価一五円)

右各八九日分 金九、八七九円

洗面器 金一〇〇円

くづ入れ 金一〇〇円

食器洗い 金九〇円

なべ 金四六〇円

たわし 金五〇円

チリ紙 金三〇〇円

新聞代(八、九月分) 金九六〇円

ネグリジエ七枚ねまき三枚 金四、二五〇円

安立整形外科病院(昭和四二年一〇月一二日~同月一三日)

交通費 金二、五二〇円

鈴木物理治療院(昭和四二年一二月一〇日)

初診料 金二〇〇円

治療費 金五〇〇円

交通費 金九〇〇円

亀井診療所(昭和四二年一二月五日)

初診料 金二〇〇円

診断書二通 金六〇〇円

待鳳病院(昭和四三年三月六日~同月一二日)

初診料 金二〇〇円

交通費 金二、五六〇円

北病院(昭和四三年三月一三日~同年四月二八日)

入院部屋代一日六〇円四七日分 金二、八二〇円

診断書一通 金三〇〇円

交通費(昭和四三年四月二九日~同年六月八日)

一日 六六〇円 三〇日分 金一九、八〇〇円

合計 金六七、九二九円

原告は、本件事故による前記受傷によつて、右金額相当の損害を蒙つた。

(ニ) 弁護士費用

原告は本件訴訟を弁護士渡辺馨、同小林義和に委任し、右弁護士らに対し、その着手金、報酬合せて金一五〇、〇〇〇円の支払いを約し、本件事故による前記受傷によつて右金額相当の損害を蒙つた。

(ホ) 慰藉料

原告は、本件事故による前記受傷を治療するために昭和四二年七月一一日から船越病院に入院し、同年一〇月六日同病院を退院し、その後も通院を続け、昭和四三年三月一一日から北病院に入院し、同年四月二八日同病院を退院し、その後も通院を続け、昭和四三年七月一九日から再び北病院に入院し、同年一〇月六日病院を退院し、その後も通院を続けたが今だに完治せず、原告が本件事故による前記受傷によつて蒙つた精神的損害の慰藉料は金一、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

(ヘ) 右(イ)ないし(ホ)の合計は金二、八六六、四〇七円である。

(6) よつて、原告は、被告らに対し各自右金二、八六六、四〇七円およびこれに対する本件訴状副本が被告らに送達された日の翌日である昭和四三年六月一六日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。

(抗弁に対する答弁)

(1) 被告ら主張の抗弁事案は否認する。

二、被告ら

(答弁)

(1) 原告主張の請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実は否認する。

(3) 同(3)の事実中、被告両名が本件事故当時夫婦にして、被告藤川峯一が本件事故の際、本件自動車を、同被告のために運行の用に供していたものであることは認めるが、その余の点は否認する。被告藤川峯一が本件自動車を、その代金を割賦弁済の方法で買受け、その証書を作成するに当り、右被告の実印が見当らなかつたので、同被告の妻である被告藤川美智子が、被告藤川峯一に対し、被告藤川美智子の実印を使用して、本件自動車を被告藤川美智子の名義をもつて買受けることを承諾したため、本件自動車の売買契約書の買主が被告藤川美智子となり、本件自動車の強制保険の加入者名義が右被告となり、本件自動車検査証の使用者並びに所有者が被告藤川美智子と記載されたものに過ぎず、被告藤川美智子が、本件自動車の所有者ではなく、運行供用者でもない。

(4) 同(4)の事実中、本件事故の際、本件自動車を運転していた被告藤川峯一が原告同乗のタクシーに道を譲るため本件自動車を原告主張の第三路に待避させたことは認めるが、その余の点は否認する。本件事故は後記抗弁で主張するとおり、原告同乗のタクシーの運転者の過失によつて発生したものである。

(5) 同(5)の事実は否認する。

(抗弁)

(1) 被告藤川峯一は、原告同乗のタクシーに道を譲るため、本件自動車を原告主張の第三路に待避させ、上り勾配になつている右第三路で、本件自動車のブレーキを外し、本件自動車を勾配の情勢のみで、徐々にバツクさせたところ、原告同乗のタクシーの運転者が、速やかに同タクシーを進行させなければならないのに、これを怠り、停車させていたため、本件事故が発生したもので、本件事故は右タクシーの運転者の過失によつて発生したもので、被告藤川峯一は、本件事故の際、本件自動車の運行に関し注意を怠らなかつたものである。

(2) よつて、原告の本訴請求は失当である。

第三、証拠〔略〕

理由

一、原告主張の請求原因(1)の事実は当事者間に争いがない。

二、〔証拠略〕を総合すれば、原告は本件事故によつて外傷性頸部症候群、胸椎、腰椎捻挫の傷害を受けたことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は、たやすく措信できず、その他に右認定に反する証拠はない。

三、原告は、被告藤川美智子が本件事故の際、本件自動車を同被告のために運行の用に供していた旨主張するので検討する。

(1)  被告らが、本件事故当時夫婦であつたことは当事者間に争いがなく、本件自動車の売買契約書の買主、本件自動車の強制保険の加入者、本件自動車検査証の使用者および所有者の各名義が被告藤川美智子となつていることは、被告藤川美智子において自認するところであるが、右争いのない事実に、〔証拠略〕を総合すれば、被告両名は夫婦であるところ、被告藤川峯一が本件自動車を訴外株式会社京都マツダから代金二一〇、〇〇〇円で購入し、この代金中金一四〇、〇〇〇円の支払いに代えて、右被告が、中古自動車を右訴外会社に交付し、残金七〇、〇〇〇円を、毎月約金四、四〇〇円の割賦弁済とするについて、右訴外会社と契約書を作成する必要上、同被告の実印の必要性が生じた。右被告は当時右被告の実印を探しても見つからなかつたので、その妻である被告藤川美智子の承諾を得て、被告藤川美智子の実印を使用し、右訴外会社との間に、被告藤川美智子が同訴外会社から本件自動車を買受け、右割賦金を支払う旨の契約書を作成し、本件自動車の強制保険も被告藤川美智子の名義をもつて契約し、京都府知事に対し、本件自動車の所有者および使用者がいずれも被告藤川美智子である旨申請したので、本件自動車の検査証にもその使用者および所有者がいずれも被告藤川美智子として記載されたものであるが、本件自動車の真の買主は、被告藤川峯一にして、その代金の支払いのために訴外株式会社マツダに交付された前記中古自動車の所有者も、被告藤川峯一にして、その割賦金も、被告藤川峯一が同被告の得る給料をもつて支払つたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)  右認定事実によれば、被告藤川美智子は本件事故の際、本件自動車の所有名義人となつてはいたけれども、それは、被告藤川峯一が本件自動車を株式会社京都マツダから買受ける際、同被告の実印が見つからなかつたから、被告藤川美智子が、被告藤川峯一に、本件自動車の買主名義を被告藤川美智子にすることを承諾したに過ぎないものということができる。

(3)  全証拠調の結果によるも、被告藤川美智子が本件事故の際、本件自動車の運行について、その支配や利益を有していたことを認めるに足る証拠はない。

(4)  よつて、被告藤川美智は、本件事故の際、本件自動車を、自己のために運行の用に供していたものということはできないので、原告の被告藤川美智子に対する本訴請求は、自余の争点について判断するまでもなく、失当である。

四、被告藤川峯一が本件事故の際、本件自動車を同被告のために運行の用に供していたものであることは、原告と右被告との間において争いのないところである。

五、被告藤川峯一は、「本件事故は原告同乗のタクシー運転者の過失によつて発生したもので、被告藤川峯一は本件事故の際、本件自動車の運行に関し注意を怠らなかつた」旨抗争するが、右被告の抗弁を認めるに足る証拠はない。

六、そうすると、自余の点について判断するまでもなく、被告藤川峯一は原告に対し、原告が本件事故によつて受けた前記傷害によつて生じた損害を賠償しなければならない。

七、〔証拠略〕によれば、原告は、昭和四〇年頃から訴外株式会社高川製作所に勤め、右訴外会社から支給を受けた月例給与は昭和四二年四月金二三、七七〇円、同年五月金二三、四五五円、同年六月金三八、四一一円にして、毎年八月と一二月との二回には、右月例給与一カ月分の一・五カ月に相当する賞与の支給を受けていたが、本件事故によつて受けた前記傷害のために、昭和四二年七月九日から昭和四三年六月八日まで右訴外会社に勤務することができず、その間右会社から、右月例給与および賞与の支給を受けることができなかつたことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は、たやすく措信できず、その他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告は昭和四二年四月から同年六月までの三月間に計金八五、六三五円の月例給与を受けたのであるから、右三月間における一カ月平均の給与額は金二八、五四五円であり、これを内輪に見積つて、原告主張の一カ月平均金二七、〇〇〇円の月例給与を受けていた旨の主張は相当である。

昭和四二年七月九日から昭和四三年六月八日までは一一カ月間であり、その間一カ月金二七、〇〇〇円の割合による月例給与の合計は金二九七、〇〇〇円である。

原告は、右一一カ月間に金二七、〇〇〇円の三カ月分の賞与の支給を受けられる筈であつたと主張するが、賞与は支給日に在勤するものに全額交付されるものではなく、六カ月間勤務したとき、月例給与の一・五カ月分の支給を受けるものと解するを相当とするので、原告は昭和四二年七月から同年一二月末日までの賞与として、同年一二月末日に、前記月例給与金二七、〇〇〇円の一・五カ月分金四〇、五〇〇円の賞与を受けることができたものであるが、昭和四三年一月一日から同年同月五日末日までの賞与として、同年八月末日に、右金四〇、五〇〇円の六分の五に当る金三三、七五〇円の支給を受けることができたのに、やむを得ず欠勤して、右賞与を受けることができなかつたものである。右賞与計金七四、二五〇円と前記月例給与の計金二九七、〇〇〇円との合計金三七一、二五〇円が本件事故による前記受傷によつて原告が昭和四二年六月九日から昭和四三年六月八日までの間、欠勤したことによつて喪失した得べかりし給与にして、原告は、本件事故による前記受傷によつて、右金額相当の損害を蒙つたものということができる。

八、前項の認定事実、〔証拠略〕を総合すれば、原告は、昭和四〇年頃から、訴外株式会社高川製作所に勤務して、右訴外会社から一カ月について金二七、〇〇〇円の月例給与と、毎年八月と一二月とに各一カ月分の月例給与の一・五カ月分に相当する賞与を受けていたのに、本件事故によつて受けた前記傷害のために、やむを得ず昭和四二年七月九日から昭和四三年七月まで右訴外会社を欠勤し、そのため昭和四三年八月右訴外会社を退職するの余儀なきに至つたけれども、本件事故による前記受傷がなかつたならば、右訴外会社を退職することもなく、右訴外会社に昭和四三年六月九日から昭和四五年六月九日までの間も、引続いて出勤し、前記各給与を受けていたこと、原告は右受傷により、昭和四三年一二月末日までは、その労働能力の全部を喪失していたが、昭和四四年一月一日から同年九月末日までは、その労働能力の三分の一は回復して、喪失した労働能力は、その三分の二となつたこと、昭和四四年一〇月一日から昭和四五年六月九日までは、その労働能力の半分が回復して、その半分の労働能力を喪失したものであることを、それぞれ認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告は本件事故による前記受傷のために昭和四三年六月九日から同年同月末日まで、訴外株式会社高川製作所を欠勤して右の間一カ月について金二七、〇〇〇円の割合で金一九、八〇〇円の得べかりし月例給与を喪失したものである。

右認定事実によれば、原告は本件事故による前記受傷によつて、昭和四三年七月一日から同年一二月末日まで一カ月金二七、〇〇〇円の割合による得べかりし月例給与を喪失したものであるが、これを年五分の中間利息を控除して、ホフマン式計算法によつて昭和四三年六月現在における価格を求めれば金一五九、六七九円となる。

右認定事実によれば、原告は、本件事故による前記受傷によつて昭和四四年一月一日から同年九月末日まで、一カ月について右金二七、〇〇〇円の三分の二に当る金一八、〇〇〇円の労働能力を喪失したもので、これを年五分の中間利息を控除し、ホフマン式計算法によつて昭和四三年六月現在における価格を求めれば、金一五四、九一七円である。

右認定事実によれば、原告は本件事故による前記受傷によつて、昭和四四年一〇月一日から昭和四五年五月末日まで、一カ月について右金二七、〇〇〇円の半分に当る金一三、五〇〇円の労働能力を喪失したもので、これを年五分の中間利息を控除し、ホフマン式計算法によつて昭和四三年六月現在における価格を求めれば金九九、八九二円である。

右認定事実によれば、原告は、本件事故による前記受傷によつて、昭和四五年六月一日から同年同月九日まで、一カ月金二七、〇〇〇円の半額、金一三、五〇〇円の割合による。金四、〇五〇円の労働能力を喪失したもので、これを、年五分の中間利息を控除し、ホフマン式計算法によつて、昭和四三年六月現在における価格を求めれば、金三、六八二円である。右得べかりし月例給与を合算すれば、金四三七、九七〇円となる。

前記認定事実によれば、原告は本件事故による前記受傷によつて、昭和四三年八月末日に、昭和四三年六月分の月例給与金二七、〇〇〇円の一・五カ月分金四〇、五〇〇円の六分の一に相当する金六、七五〇円の賞与、昭和四三年一二月末日に、同年七月一日から同年一二月末日までの月例給与一カ月金二七、〇〇〇円の一・五カ月分金四〇、五〇〇円の賞与、昭和四四年八月末日に、昭和四四年一月一日から同年六月末日までの労働能力喪失額一カ月金一八、〇〇〇円の一・五カ月分金二七、〇〇〇円の賞与、昭和四四年一二月末日に、昭和四四年七月一日から同年九月末日まで労働能力喪失額一カ月金一八、〇〇〇円の割合による計金五四、〇〇〇円と、同年一〇月一日から同年一二月末日まで労働能力喪失額一カ月金一三、五〇〇円の割合による計金四〇、五〇〇円合計金九四、五〇〇円の六分の一金一五、七五〇円の一・五倍金二三、六二五円の賞与、をそれぞれ喪失したものということができる。右喪失した賞与を合算すれば金九七、八七五円である。そうすると、原告は、本件事故によつて受けた前記傷害によつて昭和四五年六月九日までの間に、前記得べかりし月例給与計金四三七、九七〇円および右喪失した賞与計金九七、八七五円合計金五三五、八四五円相当の損害を蒙つたものということができる。

原告は、本訴において昭和四五年六月九日までの逸失利益を損害として請求しておるもので、同年八月以降に支給される筈の賞与は、未だ弁済期が到来しておらず、昭和四五年六月九日までの逸失利益ということはできない。

九、〔証拠略〕を総合すれば、原告は、本件事故によつて受けた前記受傷を治療するために、昭和四二年七月一一日から同年一〇月六日まで船越病院に入院したが、その間右入院について着用するためネグリジエ七枚およびねまき二枚を株式会社山名商店から計金六、〇五〇円で購入したこと、右入院中、京都新聞を同新聞販売所から二カ月分購入し、右販売所にその代金として計金九六〇円を支払つたこと、右受傷を治療するために、有村義肢製作所から頸椎用コルセツトを購入して、昭和四三年二月二〇日右製作所にその代金一二、七〇〇円を支払い、また同製作所から頸椎索引用具を購入し、右製作所に右コルセツトの修理を依頼して、昭和四三年二月二一日、右製作所にこれらの代金として金五、〇〇〇円を支払つたこと、更に右受傷を治療するために昭和四三年三月一三日から同年四月一二日まで葵会北病院に入院し、それについて右病院に計金二、〇六〇円を支払つたことをそれぞれ認定することができ右認定に反する証拠はないが、右以上に原告主張の入院通院諸費用を原告が負担したことを認めるに足る証拠はなく、右ネグリジエおよびねまきについては、原告主張のとおりその内金四、二五〇円のみが、本件事故による前記受傷と相当因果関係に立つものと認めるを相当とし、右認定事実のその他の支出については、いずれも右受傷と相当因果関係に立つものと認める。そうすると、原告主張の入院通院諸費用は右計金二四、九七〇円についてのみ相当にして、原告は、本件事故による前記傷害によつて、右金二四、九七〇円相当の損害を蒙つたものということができる。

一〇、〔証拠略〕によれば、原告は、昭和四三年五月二〇日本件訴訟の提起とその追行とを弁護士小林義和および同渡辺馨に依頼したことは認められるが、原告が右弁護士らに支払いを約した弁護士費用については、これを認めるに足る証拠がない。原告が右弁護士らに支払いを約した弁護士費用が認められない以上、原告が、原告主張の弁護士費用相当の損害を蒙つたものということはできないから、原告の弁護士費用相当の損害金の請求は失当である。

一一、原告が、本件事故による前記受傷のために昭和四二年七月一一日から同年一〇月六日まで船越病院に入院したことは前記認定のとおりであり、前記甲第一〇および同第一一号証によれば、原告は、右受傷を治療するために昭和四三年三月一三日から同年四月二八日まで、同年七月一九日から同年九月二八日まで、北病院に入院し、昭和四二年七月九日の本件事故発生以来右入院以外の日は毎日ではないけれども、昭和四五年六月二二日まで通院していること、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮するときは、原告が本件事故によつて受けた前記受傷によつて蒙つた精神的損害の慰藉料は金一、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

一二、原告主張の請求原因(1)の争いのない事実に、原告本人の供述を総合すれば、原告は本件事故の際、乗客として乗車していた小型乗用自動車内において、その座席に腰を浅く掛けていたことが認められ、右認定に反する証人森博司の証言はたやすく措信できず、その他に右認定に反する証拠はなく、右認定事実によれば、原告が自動車の座席に腰を浅く掛けていたため、原告の本件傷害を重からしめたものであると考えられるが、右原告の所為をもつて、原告に過失ありとして、本件損害賠償の額を定めるのに斟酌を要する事由には該当しないものと認めるを相当とする。

一三、そうすると、原告の被告藤川美智子に対する本訴請求は、失当としてこれを棄却し、被告藤川峯一に対する本訴請求は、右第七項の月例給与計金二九七、〇〇〇円、賞与金四〇、五〇〇円と金三三、七五〇円、右第八項の月例給与計金四三七、九七〇円、賞与金六、七五〇円、同金四〇、五〇〇円、同金二七、〇〇〇円、同金二三、六二五円、右第九項のネグリジエ等金二四、九七〇円、右第一一項の慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円計金一、九三二、〇六五円およびこの内金右第七項の月例給与計金二九七、〇〇〇円、賞与金四〇、五〇〇円、右第八項の月例給与計金四三七、九七〇円、右第九項のネグリジエ等金二四、九七〇円、右第一一項の慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円合計金一、八〇〇、四四〇円については、本件訴状副本が被告藤川峯一に送達された日の翌日であること記録編綴の郵便送達報告書によつて明らかな昭和四三年六月一六日から、右第七項の賞与金三三、七五〇円と右第八項の賞与金六七五〇円との合計金四〇、五〇〇円については、その弁済期の翌日である昭和四三年九月一日から、右第八項の賞与金四〇、五〇〇円についてはその弁済期の翌日である昭和四四年一月一日から、右第八項の賞与金二七、〇〇〇円についてはその弁済期の翌日である昭和四四年九月一日から、同金二三、六二五円についてはその弁済期の翌日である昭和四五年一月一日から、各支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲内においては相当であるから、これを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条、第九三条、仮執行およびその免脱の各宣言について同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 常安政夫)

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